品川区指定天然記念物
戸越八幡神社のケンポナシ

所在:戸越二丁目六番二十三号
指定:昭和五十三年二月十四日(第十五号)

ケンポナシはクロウメモドキ科に属する落葉樹の高木で、夏に淡い黄色の小さい花をたくさんつける。
実は球形で、九月から十月に紫黒色(しこくしょく)に熟し、甘味があって食べられる。

本樹の幹の囲りは約二・五メートル、高さは十八メートルあり、推定の樹齢は二百五十年から三百年である。もと、幹は二本立であったが、右側が枯れてなくなり、現在は一本立である。

近年、ケンポナシは都区内ではほとんど見られなくなった木で、本樹の存在は貴重である。

平成八年三月三十一日
品川区教育委員会

戸越八幡神社のケンポナシについて

伊藤 弥寿彦

戸越八幡神社のケンポナシは、都区内では相当希少性の高い希有な巨木である。この木は、昭和53年に品川区の天然記念物(第15号)に指定された。

品川区指定文化財についての資料によれば、品川区指定天然記念物の樹木は第1号~22号までの22本である。このうち16本が寺社仏閣の境内にあり、いかに神社や寺が都区内に残る大木の重要な残存地であるかがうかがえる。

筆者は、2012年から行われた第二次明治神宮境内総合調査を立ち上げ、150人におよぶ専門家の協力を得て、史上初となった境内の動植物全般にわたる調査を行い、同時にその映像を記録しNHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」の監督(ディレクター)を務めた。明治神宮で記録された植物は779種におよんだが今回の調査でケンポナシは記録されなかった。明治神宮の樹木は100年前の1920年の鎮座にむけて日本中から集められ植樹されたものだが、実はその時にはケンポナシが含まれていた。しかし100年後の今、残念ながらその姿は消えていたのである。

ケンポナシは、北海道から九州まで見られる広域分布種ではあるが、大木は多くない。筆者はこの5年ほど、神社の自然、社叢林(神社の森)を調査し、日本全国500カ所以上の神社を見てきたが、その中でケンポナシを観察したのは数えるほどで、

まして一抱えにできような大木となると、戸越八幡神社で見たものが唯一と言える。

戸越八幡神社のケンポナシが、品川区の天然記念物に指定されたことは、大変懸命な措置だったと考える。上記に挙げた他の天然記念物の樹種の中で、最も希少性の高い種であることは疑いない(因みにイチョウやフウ、ボダイジュは日本の在来種ではない)。

※上記、伊藤氏による調査報告書(令和二年)より抜粋

伊藤 弥寿彦 氏 経歴
自然史映像作家。昆虫研究家。文筆家。
神道・神社・社叢研究家。
曽祖父は、初代内閣総理大臣(明治18年:1885年12月22日~1888年4月30日) 伊藤博文、横浜開港に寄与するなどの実業家並びに『易聖』と称された易断家 高島嘉右衛門。
◯作品
NHKスペシャル
・『南極大紀行』(2003年)
・『プラネットアース 生きている地球』(2006年)
・『プラネットアース 草原 命せめぎあう大地』(2006年)
・『プラネットアース 極地 氷の世界』(2006年) (アースビジョン 地球環境映画祭 環境映像部門 入賞)
・『プラネットアース 深海』
・『明治神宮 不思議の森』(2015年) (平成27年度 第70回 芸術祭 参加作品
◯著書
・『動く図鑑MOVE 昆虫のふしぎ(1)』(講談社)
・『動く図鑑MOVE 昆虫のふしぎ(2)』(講談社)
・『生命の森 明治神宮』(2015年 講談社)

ケンポナシに暮らすニホンミツバチについて

ケンポナシの根元の洞(うろ)に日本在来種であるニホンミツバチが巣を作っております。
専門家のご意見や、ニホンミツバチの生態につて詳しく紹介されているサイトなどによると、ニホンミツバチは攻撃性が低くほとんど人を襲うことがない(※注意)大変おとなしい蜂ということが分かりました。日本にしかいない固有の在来種であるのですが、さまざまな理由により

近年その数は減少の一途をたどっており、希少性の高い種であるとされています。

野生のハチたちをはじめ花粉媒体生物による授粉によって私たち人間の食は多大なる恩恵を受けて支えられています。また、樹木医さんのお話しによると木の洞にハチが巣を作ることで、

蜂蜜のもたらす抗菌作用が腐朽菌などから木を守ってくれるという側面もあるとのことでした。
ケンポナシとニホンミツバチのこれからを是非あたたかく見守っていただけますと幸いです。

自然の恵みとはたらきに生かされていることを忘れず、一人ひとりが感謝の心を育んでいくことが自然を守り、自然と調和・共存してゆける道を照らしてゆくのかもしれません。

現在、中延商店街の中に拠点を構える『日本蜜蜂保存会』の方々と樹木医さんのご指導・ご協力をいただきながら今後の保護活動について話を進めております。
年内には巣箱の設置を予定しており、ニホンミツバチの保護を通して、自然の営みを知ってもらい・肌でその感覚に触れることで命の循環とあたたかさを感じていただきながら、

お一人おひとりの心が元氣になるような活動へと発展してゆくことを願っております。

※注意)絶対に人を刺さないということではありません。ニホンミツバチは自分たちの身の危険を感じた場合は命と引き換えに攻撃をしてくることがあるようです。
刺された場合の症状はアレルギーの有無により大きく異なり稀にアナフィラキシーショックを引き起こす可能性もあるそうです。また、黒や紺色のものに警戒したり、香水や化粧品中に含まれる物質がニホンミツバチを刺激してしまうおそれもあるようです。どうか不用意にハチたちを刺激しない為に数メートル離れた場所からの観察にご協力下さいますようお願い申し上げます。